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札幌家庭裁判所苫小牧支部 平成9年(少ロ)1号 決定 1998年3月31日

少年 B・Y子(昭和53.7.20生)

主文

本人に対し、金6,000円を交付する。

理由

1  当裁判所は、本人に対する平成9年(少)第142号覚せい剤取締法違反保護事件において、送致された2件の事実のうち、覚せい剤を所持した事実(以下「所持の事実」という。)については、平成9年11月19日、その事実が認められないことを理由として本人を保護処分に付さない旨の決定をし、残りの覚せい剤を使用した事実(以下「使用の事実」という。)については、平成10年3月3日、それを認定した上、本人を札幌保護観察所の保護観察に付する旨の決定をした。

そして、上記保護事件の記録によれば、本人は、平成9年6月24日、所持の事実と同一の被疑事実に基づき逮捕され、同一の被疑事実で勾留請求がなされ、同月26日から同年7月4日まで勾留されたこと、そして、同日、使用の事実を合わせて札幌家庭裁判所に送致されるとともに当該2件の事実により同裁判所で観護措置決定を受けて札幌少年鑑別所に収容されたこと、第2回審判期日である同月30日に試験観察決定により退所した(身柄拘束日数は37日間である)ことが認められる。

2  そこで、本人に対する補償の要否について検討する。

まず、本人に対する身柄拘束のうち、観護措置によるものについては、上記1のとおり、所持の事実に加えて使用の事実にも基づくものであり、上記保護事件の記録により認められる使用の事実の態様、本人の当時の生活状況等に鑑みれば、使用の事実だけでも観護措置をとる必要があったことが明らかである。

次に、本人に対する身柄拘束のうち、逮捕勾留によるものについてであるが、それは、上記1のとおり、事実が認められないことを理由として不処分になった所持の事実と同一の被疑事実に基づくものである。しかし、仮に、本人が所持の事実で逮捕されなかったとしても、本人提出にかかる尿から覚せい剤が検出された旨の鑑定書が作成された同年6月25日以降、使用の事実で本人を逮捕する必要があったというべきである。また、上記保護事件の記録によれば、勾留請求のあった同年6月25日には既に使用の事実につき、鑑定嘱託がなされ鑑定中であったこと、そして、勾留期間中に使用の事実についても、本人に対する取調べがなされたことが認められる。

なお、現行犯逮捕された同月24日の1日については、少年の保護事件に係る補償に関する法律(以下「法」という。)3条各号に規定する事由は認められない。

したがって、上記37日間の身柄拘束のうち、逮捕当日の1日については、法2条1項により補償することが必要であるが、その余の36日間については、法3条2号に該当するので、同条本文により、本人に対し補償をしないこととする。

3  次に、補償金額について検討する。

上記保護事件の記録及び調査結果によれば、本人は、上記の逮捕当時、アルバイトとしてスナック「○」において午後7時30分から午前零時まで稼働し、時給として金1,200円を得ていたこと、そして、苫小牧簡易裁判所の裁判官の勾留尋問に対して所持の事実に関して自白したことや検察官に対して「覚せい剤の一部は私の使用分となり、その意味では一緒に所持したことになる」旨の供述をしていることが認められるが、他方で司法警察員に対しては一貫して否認し、検察官に対しても「覚せい剤は、Aがお金を出しているからAのもの。」という供述をし、観護措置手続や審判においても否認し、共犯者とされるAの司法警察員に対する供述及び当審判における証言も本人の所持を否定する内容となっていることを踏まえると、本人は、全体としては当初から一貫して所持の事実を否認していたものと認められる。これらに上記記録によって認められる本人の年齢、生活状況など諸般の事情を併せ考慮すると、本人に対しては、1日6,000円の割合による補償をするのが相当である。

4  よって、本人に対し、上記2のとおり補償の対象となる身柄拘束日数1日について、上記3の割合による補償金合計6,000円を交付することとし、法5条1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 中村哲)

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